豊島与志雄さんの小説「童貞」にかんたんしました。



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豊島与志雄 童貞

 

童貞喪失前のもだえる内容ではなく、
童貞喪失を描いたけしからん内容でもなく、
童貞喪失直後の自我の暴走を描写した小説となります。


わあ……。

 


詳しい説明はありませんが、友達の井上くんという方に連れられて
八重子さんという女郎を抱いてきたようです。

身体にこな白粉の香りがまとわりついているという描写がありますので、
おそらく相手はプロかセミプロでしょう。



それで夜遅くお家に帰ってきたところから小説が始まるのですが。


のっけからラストまでずぅーーっと自我が暴れ狂い盛りなのでございます。



……母は何にも感づいてはいないんだな。
だが……天井からぶら下ってる電燈、茶箪笥や長火鉢、父の読み捨ての夕刊、それを丹念に読んでる母……昔からその通りで、そしてこれからも永遠に……。畜生、何もかも……。


何も変わっていない日常に苛ついたり。



向うの室から、放笑しそうなのをじっとこらえた顔付で――眼付で、お千代が見ていた。そのぽっちりした赤い頬辺に、飛んでいってかじりついてやったら……母の眼の前で。


女中さんを性的な対象として見てみたり。

 

 

身体中がねとねとして気味悪かった。


自分から清浄が失われたような気がしたり。

 

 

湯殿から飛び出しかけた。が、……茶の間をぬけて寝室の方へ行くのには、母の前を通らなければならなかった。着物を抱えて真裸のままで母の前を……。
そんなこといつだって平気だったんだが……。
ふと、咽せ返るような追想に、足が竦んでしまった。
意気地なしめ、なあに……。
擽ったいような気持で、歯をぎりっと一つやって、猛然と突き進んでいった。


なんだか急に母親の視線が気になっちゃたり。

 

 

盛り盛りです。

ロストバージン直後にあるようなないような感情のうねりが次々と。
自我、強いです。強過ぎです。

 


そのまま翌日も、大人ぶってレストランで酒を飲んでみたり
道行く大人がみんな馬鹿っぽく見えたり
本を買うからと両親を騙して大金を手に入れたり……

いっこうに鎮静の兆しがございません。


なんだその金、八重子さんのところにまた行くつもりなのか。
ご両親が泣くぞ。

 

 

往来の石ころを、下駄の先で蹴飛して歩いた。ころころとよく転った。
そんなもんだ。そんなものだ、童貞なんて。大切でも何でもないただ円い玉、どこへ転ってゆこうと平気だ。溝の中へでも、青空へでも、勝手に転ってゆけ……。

どうしたら……畜生……。しきりに石ころを蹴飛してやった。

 

若いって大変です。
穏やかでない勢いを感じます。

「やあ、素人童貞くん」とか声かけたら刺されそうですね。

 



性に対する価値観は人それぞれです。

童貞・処女の喪失をどう捉えるかも人によって違いますが、
異様なほど重きを置く方もしばしばいらっしゃいます。

その価値観の相異が恋人の間に諍いを招いたりもしますしね。
明け透けな元彼とのロストバージン話をして今彼がプチーンしたり。


いまの時代は特殊な性癖だとか持って生まれたLGBTだとか
いろんなファクターが知られてきておりますから、
ますます性の価値観をすり合わせることが難しくなってきています。

特定宗教とかのもとで一律同じような価値観が強制されていたら
社会秩序的にはシンプルですけど、いまさらそんな時代にも戻れません。


性の話はオープンにしにくいところもあって、
悩みや葛藤を抱えている方も多いんでしょうね。

オープンにすればいいというものではまったくありませんし。




それにしても、こうした性の葛藤を克明に描写したこちらの小説――
しかも戦前の作品――すごいことだと思います。

発表したとき、アホな連中からアホなイジリを受けなかったんでしょうか。
個人のリスクよりも文学的価値を優先したということでしょうか。

気高い、気高いよ!

 


現童貞の方、童貞喪失直後の方は謹んで拝読いたしましょう。

悶々も突き詰めればアートに昇華し得るのですよ。


悶々……モンモンモン……
モンモンモンの感動的なラストがもっと評価されますように。

 

 

 

 ※そう言えば昔、ヤングサンデーで「Bバージン」ってありましたね。

  あれも作者さんの歪んだパッション・コンプレックスが充満していて
  異様に尖った作品でした。

  思想的にまともかどうかは一旦置いておいて、
  作者さんの屈折や情念が籠もりまくっている作品は稀有です。
  実にあの頃のヤングサンデーっぽい。